この幻想的曲集を閉じるのは、春の宵の美しさと衝き上げる恋心。掻きたてるようなピアノの連打と飛翔する対旋律によって音楽となった愛の陶酔。


Frühlingsnacht

春の宵


Über'm Garten durch die Lüfte
庭園のうえの 空中を
Hört' ich Wandervögel ziehn,
渡り鳥が飛ぶのを 聞いた
Das bedeutet Frühlingsdüfte,
それは春の芳香を 思わせる
Unten fängt's schon an zu blühn.
地には 花が開きはじめた

Jauchzen möcht' ich, möchte weinen,
私は歓喜の声を上げ 泣きたくなった
Ist mir's doch, als könnt's nicht sein!
ありえないようなことが 私に起こった
Alte Wunder wieder scheinen
昔の奇跡が 再び輝き
Mit dem Mondesglanz herein.
月の光とともに 射しこむ

Und der Mond, die Sterne sagen's,
そして月と 星々はそれを言う
Und im Traume rauscht's der Hain,
そして夢のなかで 森がざわめき そう言う
Und die Nachtigallen schlagen's:
そして夜鶯が 告げる…
Sie ist deine! Sie ist dein!
彼女は君のもの 彼女は君のものと

(Joseph von Eichendorff)
(ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ、対訳:山枡信明)