ライン川の岸の山上にはたくさんの城がありますが、その多くが廃墟です。この詩は、年老いた騎士が何百年も川を見下ろして座っているという不思議な話。音楽も、時間が流れを止めて凍ってしまったかのような独特の雰囲気をもっています。

Eingeschlafen auf der Lauer

ひとりの年老いた騎士が

Oben ist der alte Ritter;

外を窺ううちに　眠りこんでいる

Drüber gehen Regenschauer,

上を　驟雨が通りすぎ

Und der Wald rauscht durch das Gitter.

格子を通して　森のざわめきがきこえる

Eingewachsen Bart und Haare

ひげと髪は　かちかちに固まり

Und versteinert Brust und Krause,

胸と　襟のひだ飾りは　石に変わり

Sitzt er viele hundert Jahre

何百年もの間　山上の静かな小部屋に

Oben in der stillen Klause.

座っている

Draußen ist es still und friedlich,

外界は　静かで平和

Alle sind ins Tal gezogen,

人はみな　谷に下りて行った

Waldesvögel einsam singen

森の小鳥が　孤独に歌う

In den leeren Fensterbogen.

空っぽのアーチの窓にむかって

Eine Hochzeit fährt da unten

眼下では　結婚式の船が

Auf dem Rhein im Sonnenscheine,

陽光に照らされたライン川を行く

Musikanten spielen munter,

楽師たちが　にぎやかに楽を奏でるが

Und die schöne Braut, die weinet.

美しい花嫁は　泣いている

(Joseph von Eichendorff)

（ヨーゼフ・フォン・アイヒェンドルフ、対訳：山枡信明）